2025.6.29
「認知症」のトリセツ

あしたが変わるトリセツショー

「認知症」のトリセツ
公開:2025年6月19日(木)午後7:28
更新:2025年6月19日(木)午後8:00
NHK
トリセツ01 新常識!認知症になってもできることはいろいろ
▼ 「知ってほしい!」先輩たちが語る認知症のリアル
街ゆく人に認知症のイメージを尋ねると、「何もわからなくなる・できなくなる」「怖い」「絶望」など、マイナスイメージが続出。しかし、認知症に対し過度なマイナスイメージを持っていると、症状があっても受け入れることができず、適切な治療や支援にたどりつけなかったり、社会的に孤立したりすることがあります。
そこでトリセツでは、実際のところはどうなのか、認知症のある“先輩”たちに聞く座談会を開きました。すると、人によって症状はさまざま・できることはいろいろあるということがわかりました。
さらに、診断された当初はひどく落ち込み、引きこもっていた方も、同じく認知症のある仲間と出会ったり、最初は症状を受け入れることができなかった方も、症状について積極的に周囲に伝えていったりすることで、気持ちが前向きになった、とのことでした。最初からすんなり受け入れられた方は、地域で理解が進んでいたことが大きかったと言います。認知症であることを受け入れることで仕事や趣味なども楽しめるようになり、やりたいことに挑戦しながら、生き生きと暮らしている姿がありました。
先輩たちは、認知症になっても自分自身が変わるわけではないので怖がりすぎる必要はないということ、認知症になっても幸せに生きることはできるはず!というメッセージを伝えてくれました。
▼ 新しい認知症観にアップデート!
このような「認知症になっても、できること・やりたいことがあり、自分らしく生きることができる」という考え方は、「新しい認知症観」と呼ばれます。去年、認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)も施行され、この考え方をベースに、さまざまな施策も始まっています。
たとえば和歌山県御坊市では、条例を作り、認知症のある人の声を、まちづくりに生かしています。銭湯で「ボディソープとシャンプーの違いがわかりにくい」という声が認知症の方からあったので、ボトルに「からだ」「あたま」と大きく書いたり、「郵便局のマークが見えづらくて、郵便局だと気づけない」という声があったので、郵便局のマークを大きくペイントしたり。社会も少しずつ変わってきているのですね。

▼ 脳内でダメージが少ない部位の機能は 比較的保たれている!
この「できることはいろいろ」の秘密は、脳にあります。脳では、神経細胞が情報を伝え合っていますが、この細胞が何らかの原因でダメージを受けると、情報が伝わりにくくなります。これが脳のどこで起きるかによって、症状は変わります。
たとえば記憶をつかさどる部位がダメージを受けると、もの忘れなどの症状が出やすい。視覚をつかさどる部位なら、幻視などの症状。注意力や感情をつかさどる部位なら、それらのコントロールがしにくくなるなどの症状。つまり、裏を返せば、ダメージが少ない部位の機能は、比較的保たれているのです!

▼ 認知症の原因となる病気は70以上!症状もさまざま
そもそも認知症とは、さまざまな原因により、脳の働きに変化が起き、生活に支障が出ている状態のこと。その認知症の原因となる病気は、70以上あると言われています。
いちばん多いのが、アルツハイマー病。主な症状は、もの忘れなどです。次に多いのが、血管性認知症。症状は、脳梗塞や脳出血を起こした場所によって異なります。続いて、レビー小体型認知症。主な症状は、幻視などです。
ほかにも、認知症の症状として、手の震えや歩きにくさが表れることもあり、この場合、認知症だとは気づかず、受診が遅れてしまうこともあります。


▼ 症状は進行するが 楽しいことは続けて生活を豊かに!
代表的なアルツハイマー病で、症状の進行をみていきましょう。まず 「軽度認知障害(MCI)」 は、認知症の前段階で、生活に大きな支障はありません。そこから症状が進み、生活に支障が出てくると「認知症」となり、「軽度→中等度→重度」と進行。そのスピードには個人差があります。
主な症状は、軽度では、約束を忘れたり、同じ話を繰り返したりなど。中等度では、1人での外出が難しくなるなど。重度では、入浴やトイレが不得意になったり、感情表現や言葉が少なくなったりなどがあります。
東京医科大学 主任教授 清水聰一郎 医師によると、認知症になっても、楽しい・うれしい・悲しいなどの感情は残っているので、本人が楽しいと思うことはどんどんして、「まだあれもできる、これもできる」と思うことで、生活が豊かになる、とのことです。

▼ 怒りっぽい/暴力的/徘徊(はいかい)には理由があるかも!?
認知症といえば、怒りっぽくなる、暴れる、徘徊する…などのイメージも多く聞かれますが、実際はどうなのでしょうか?
認知症の症状は、中核症状と周辺症状という2つに分けられます。中核症状は、脳の機能低下によって起きる症状で、もの忘れ、仕事や家事の段取りが難しくなる、時間や場所がわからなくなる、空間把握が難しくなる、など。一方、周辺症状は、中核症状が起きた結果、心理・行動の変化が起こる、二次的な症状。攻撃的な行動や徘徊、妄想なども、周辺症状と言われています。

周辺症状が表れる理由はさまざまあります。たとえば、認知機能の低下によって起こる視覚や空間把握の変化から考えてみます。
認知症がある場合、脳の情報処理がうまくいかず、視野を狭く認識する、色のコントラストがわかりにくい、距離感をつかみにくいなど、視覚情報に影響が出ることがあります。たとえば、電車とホームの隙間が深い底のように見えたり、車を降りるとき、地面までの距離がつかめなかったりして、恐怖に感じることがあるそうです。

そんなとき、周囲の人が視野の外から急に腕を持って「早く行こう!」とせかしたりすると、怒りたくもなる…というわけ。うまくいかずにもどかしい思いをしている中、他人から指摘されると、感情が揺さぶられることは誰しもありますよね。脳の機能低下によって怒りっぽくなる場合もありますが、怒りっぽくなることがすべて病気によるもの、というわけではないのです。