2025.5.27
迫り来る台湾有事
超大国による決戦は意外に早い? 迫り来る台湾有事
英エコノミスト誌 2025年5月3日号(抜粋)

トランプ政権による関税政策が中国に台湾侵攻を促す動機を与えてしまうかもしれない(写真:ロイター/アフロ)
中国は「やれるものならやってみろ」と米国に挑む新たなチャンスを手にしている。
米国と中国の関係はかなり冷え込んでいる。両国は100%を優に超える関税を互いにかけ合い、貿易が途絶えた。
どちらも人工知能(AI)をはじめとする21世紀のテクノロジーを牛耳ろうと躍起になっている。大規模な軍事力増強も進行中だ。
前回の冷戦では、そうした対立関係がベルリン空輸やキューバのミサイル危機といった問題をめぐって一触即発の事態に発展した。
今では、米国の覚悟は台湾問題をめぐって試されることになりそうだ。それも多くの人が思っているよりも早い時期に、だ。
台湾をめぐる米中の緊迫
中国は、台湾は中国の一部だと主張しており、特に台湾が独立を宣言するなら侵攻も辞さないとしている。
だが、台湾は自治を行う民主政体として存続することを望んでいる。
米国はこの矛盾を危うい曖昧さで両立させている。中国から正式に分離独立しないよう台湾に働きかける一方で、紛争解決のための武力行使に反対すると同時に、台湾の安全を保証せずに武器を売却している。
近年、この膠着状態はますます緊迫している。
過去3回の台湾総統選挙はいずれも、独立に傾いている民主進歩党(民進党)が勝利を収めた。
地元企業の台湾積体電路製造(TSMC)がAI向けをはじめとする最先端半導体の製造を牛耳るに至ったことから、この島の経済的な重要性は2010年以降高まっている。
中国の防衛費は現行レートのドル建てで3倍に拡大し、アジアにおける米国の明らかな軍事的優位性を低下させている。
米国の戦略担当者は、米国が戦闘に臨むかもしれないというシグナルをしっかり中国に発信している限り、習近平国家主席は中国統一という生涯の目標を先送りするとの期待にしがみついている。
もし台湾をめぐって戦争が起きたら壊滅的な事態になるだろう、大失敗するかもしれない侵攻に自分の政治的遺産と中国共産党の未来を賭けるなどという性急な判断を習氏が下すはずがない、というわけだ。
トランプ政権下で弱まる抑止力
今、3つの要因から、こうした見方に対する疑問が深まってきている。
1つ目は、トランプ氏の下で米国が抑止力を失いつつあることだ。大統領とそのタカ派寄りの支持者らは力による平和を目指している。
そして貿易戦争と欧州離れは大統領が中国との対立を外交政策の中核に据えていることの証左だと述べている。
残念ながら、その貿易戦争は正反対の効果をもたらしている。
トランプ氏は2024年、もし中国が台湾侵攻を試みたら関税をかける考えを表明し、「課税するぞ。税率は150%とか200%だ」と語った。
今日の関税率は145%だ。米国はもう全力を出した。
貿易戦争とは、痛みに最も耐えられる国が誰かという戦いであり、中国はこれなら自分たちが勝つのではないかと思うだろう。
米国の保護主義は同盟国も苦しめている。
台湾には32%もの関税率を適用しているし、トランプ氏はTSMCの工場を米国内に移転させるよう圧力をかけている。
オーストラリア、日本、韓国には関税と、大口の貿易相手国である中国との関係を断てという要求を突き付けている。
米国との安全保障同盟を破棄する国はアジアにはない。
辞任を表明した韓国首相が本誌エコノミスト今週号のインタビューで話している通り、ほかに選択肢がないからだ。
だが、アジア諸国は台湾をめぐる戦いに巻き込まれることについては、もっと強い不安を覚える。
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英エコノミスト誌 2025年5月3日号(抜粋)

トランプ政権による関税政策が中国に台湾侵攻を促す動機を与えてしまうかもしれない(写真:ロイター/アフロ)
中国は「やれるものならやってみろ」と米国に挑む新たなチャンスを手にしている。
米国と中国の関係はかなり冷え込んでいる。両国は100%を優に超える関税を互いにかけ合い、貿易が途絶えた。
どちらも人工知能(AI)をはじめとする21世紀のテクノロジーを牛耳ろうと躍起になっている。大規模な軍事力増強も進行中だ。
前回の冷戦では、そうした対立関係がベルリン空輸やキューバのミサイル危機といった問題をめぐって一触即発の事態に発展した。
今では、米国の覚悟は台湾問題をめぐって試されることになりそうだ。それも多くの人が思っているよりも早い時期に、だ。
台湾をめぐる米中の緊迫
中国は、台湾は中国の一部だと主張しており、特に台湾が独立を宣言するなら侵攻も辞さないとしている。
だが、台湾は自治を行う民主政体として存続することを望んでいる。
米国はこの矛盾を危うい曖昧さで両立させている。中国から正式に分離独立しないよう台湾に働きかける一方で、紛争解決のための武力行使に反対すると同時に、台湾の安全を保証せずに武器を売却している。
近年、この膠着状態はますます緊迫している。
過去3回の台湾総統選挙はいずれも、独立に傾いている民主進歩党(民進党)が勝利を収めた。
地元企業の台湾積体電路製造(TSMC)がAI向けをはじめとする最先端半導体の製造を牛耳るに至ったことから、この島の経済的な重要性は2010年以降高まっている。
中国の防衛費は現行レートのドル建てで3倍に拡大し、アジアにおける米国の明らかな軍事的優位性を低下させている。
米国の戦略担当者は、米国が戦闘に臨むかもしれないというシグナルをしっかり中国に発信している限り、習近平国家主席は中国統一という生涯の目標を先送りするとの期待にしがみついている。
もし台湾をめぐって戦争が起きたら壊滅的な事態になるだろう、大失敗するかもしれない侵攻に自分の政治的遺産と中国共産党の未来を賭けるなどという性急な判断を習氏が下すはずがない、というわけだ。
トランプ政権下で弱まる抑止力
今、3つの要因から、こうした見方に対する疑問が深まってきている。
1つ目は、トランプ氏の下で米国が抑止力を失いつつあることだ。大統領とそのタカ派寄りの支持者らは力による平和を目指している。
そして貿易戦争と欧州離れは大統領が中国との対立を外交政策の中核に据えていることの証左だと述べている。
残念ながら、その貿易戦争は正反対の効果をもたらしている。
トランプ氏は2024年、もし中国が台湾侵攻を試みたら関税をかける考えを表明し、「課税するぞ。税率は150%とか200%だ」と語った。
今日の関税率は145%だ。米国はもう全力を出した。
貿易戦争とは、痛みに最も耐えられる国が誰かという戦いであり、中国はこれなら自分たちが勝つのではないかと思うだろう。
米国の保護主義は同盟国も苦しめている。
台湾には32%もの関税率を適用しているし、トランプ氏はTSMCの工場を米国内に移転させるよう圧力をかけている。
オーストラリア、日本、韓国には関税と、大口の貿易相手国である中国との関係を断てという要求を突き付けている。
米国との安全保障同盟を破棄する国はアジアにはない。
辞任を表明した韓国首相が本誌エコノミスト今週号のインタビューで話している通り、ほかに選択肢がないからだ。
だが、アジア諸国は台湾をめぐる戦いに巻き込まれることについては、もっと強い不安を覚える。