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若い職員来ない


若い職員来ない 77歳ヘルパー不安
1/4(日) 11:27

崩壊迫る地方介護 支える77歳ホームヘルパーの不安「若い人が入ってこない」国の制度変更も追い打ちに



住み慣れた自宅で、最期まで自分らしく生きたい——。そんな切実な願いを叶えようと、ひたむきに支える人たちがいる。崩壊の瀬戸際に立つ日本の介護。過疎が進む北海道で高齢者の笑顔のために働く77歳の訪問介護員に密着する。
「若い人が入ってこない」深刻な人手不足の中、地域の“最後の砦”として踏みとどまる訪問介護。介護制度のはざまで現場が直面する課題と「自分らしく生きる」ことの意味を問い直す。


利用者(91)と買い物にやってきた伊津子さん(右)

午前8時30分「笑顔を届ける」1日のはじまり

2025年11月中旬、北海道東部の標茶町 (しべちゃちょう)。午前8時30分、剣谷伊津子(つるぎや・いつこ)さん(77)の朝は慌ただしい。
「おはようございます。熱だけ測らせてもらいます」
「朝ごはん食べれた?」
利用者(95)の自宅で、明るい声が響き渡る。
朝の身支度を手伝い、家族に代わってデイサービスへの送り出しを行う。

9時50分。一息つく間もなく、次の利用者(91)の自宅へと車を走らせた。
買い物リストを持ち、近所のスーパーでの買い物に同行する。

移動中の伊津子さん 自らハンドルを握る

「豆腐は木綿の方が良い?柔らかい絹が良い?」
細やかな気配りを忘れない。
77歳になる訪問介護員・伊津子さんの毎日だ。
この道20年のベテランの伊津子さんは、広大な標茶町を車で移動する。

酪農の町として知られる標茶町は東西に58.9キロ、南北に60.5キロ、総面積は1099平方キロメートル。広さは東京都のおよそ半分にも及ぶ。
人口は約6700人。町によると、高齢化率は全国平均を大きく上回る38.4%に達した。

「行くのも大変だし、車の運転は道路状況でかなり違ってくるので怖いですよ」 (伊津子さん)
いまは遠いところで、車で片道15分ほど、1日3軒ほどの高齢者宅を訪問するが、冬のアイスバーンやシカとの衝突事故に細心の注意を払っている。

原点は亡き母親の「うちへ帰りたい」


伊津子さんの仕事ぶりに信頼を寄せる利用者(90)

伊津子さんの仕事ぶりに、利用者の信頼は厚い。
「(Q掃除は?)完璧、彼女すごいんだわ。もう超助かっている。歩けないし、買い物行けないし、骨折して掃除機もかけられないから」(利用者) 

できるだけ利用者に寄り添いたい―伊津子さんがそう考えるようになったきっかけは、亡き母親の存在だ。
「(きっかけは)親の介護ですね。母親が寝たきりになって。釧路の実家でみていました」
北海道釧路市の病院で、看護師として勤務していた伊津子さん。
20年ほど前、圧迫骨折で入院し寝たきりとなった母親が「うちへ帰りたい」と自宅での介護を希望。約1年間の介護を経験した伊津子さんは「母と同じく自宅で余生を過ごしたい人はもっといるはず」と地元でヘルパーになった。

看護師として働いていたころの伊津子さん

「利用者さんに会うのは楽しい。笑ってほしいという気持ちで訪問している。利用者さんが求める限り働きたい」

時給上げても人こない 人手不足の現状に悩み

「いちご」の仲間たちと談笑する伊津子さん(右)

伊津子さんの勤務先「ホームヘルプステーションいちご」には現在16人の職員がおり、37人の利用者を支えている。町内で訪問介護を専門とする唯一の事業所で、まさに「最後の砦」だ。
「健康面は大丈夫なので」「いちごのみんながいい人なんですよ。仲間と別れたくないんです」

訪問介護員で最年長、77歳という年齢で第一線に立ち続ける伊津子さんだが、人材不足の現状に不安がないわけではない。
「(職員に)若い人が入ってこない」「続いてくれないと事業所もやっていけない」。
2005年に開所した「いちご」。2025年で20年を迎えるが、当初は40代後半だったという職員の平均年齢は、いまでは60歳ほどと高齢化が進んでいた。  

事業所も人手不足に頭を抱えている。

「いちご」を運営する中野重治さん(右)と妻のまゆみさん(左)

「いくら募集しても人が集まらない」「どんなに良い仕事だといっても、こちらが説明しても訪問介護には人が集まらない」(ホームヘルプステーションいちご 中野まゆみさん)

時給1300円からと経営的に限界まで上げているが、人は集まらないという。

さらに、地方ならではの問題ものしかかる。
広大な土地に点在する高齢者の自宅を訪れるため、訪問介護員は長距離での移動を余儀なくされる。
「以前は(車で)1日100キロぐらい走っていた」というが、ガソリン代などのコストがかさむため、そうした移動を要する依頼は断らざるを得なくなっている。

厳しい運営を強いられる中、国の制度変更がさらに追い打ちをかけていた。
「介護報酬単価が引き下げられたので、赤字になったんです」(ホームヘルプステーションいちご代表 中野重治さん)
訪問介護の基本報酬 約2%引き下げ…事業所は「赤字」に

「訪問介護」の収入の仕組み

「いちご」のような訪問介護事業所の収入の大部分を占めるのが、介護保険制度に基づいて支払われる「基本報酬」だ。
しかし、国は2024年度、この基本報酬を約2%引き下げた。
財源は原則、約1割を利用者が負担、残りの約9割は税金と40歳以上の国民が納める保険料でまかなわれている。

これらを合わせた額が事業者に支払われ、大部分が職員の給与に充てられるため、基本報酬が下がれば職員の賃金の低下に直結し、人手不足に拍車をかける。

訪問介護の利益率 都会と地方で「格差」

厚労省がまとめた訪問介護事業の利益率

このような改定が行われたのは、訪問介護の平均利益率の高さが背景にある。
国の2024年度の調査では、介護サービス全体の利益率が4.7%であるのに対し、訪問介護の利益率は約2倍の9.6%に上るという。

訪問介護の利益率は「地方」と「都市部」では大きく違う

ただし、訪問介護の利益率は、事業所の規模や立地によって大きく異なる。
例えば、都市部の大規模な事業所は、高齢者向けマンションなどに併設されていることが多く、効率的に多くの利用者を訪問できるため、利益率は高い傾向だ。
対照的に、「いちご」のような地方の小規模な事業所では、ヘルパーが広範囲を移動して利用者の自宅を一軒一軒訪れる必要があるため、移動コストがかさみ、利益率は低くなる傾向がある。

「いちご」の全体会議 顔を合わせて利用者の状況を共有

基本報酬は3年ごとに改定されるものの、2024年度に引き下げられたまま最低賃金だけが上がっているのが実情だ。
「うちとしてもそれに合わせて賃金を上げるような感じになっているので、経営が逼迫している。あと2年も待てない」。中野さんは厳しさを吐露する。  

地方の現状を、国はどう受け止めているのか——

厚労省は「小規模な事業所、地方・中山間地域の事業所の果たす役割の大切さはよく分かっている。地域包括ケアシステムの中で支援していく方針に変わりはない。制度・仕組みを持続可能なものとして再構築していく必要がある」と従来の方針に変わりはないとした。

「非常に不公平」専門家は制度変更訴え


星槎道都大学の大島康雄准教授

介護制度に詳しい専門家も危機感を募らせる。
「同じ保険料を払ってサービスを受ける権利があったとしても使えるものがないのは、非常に不公平。家で生活することが難しくなることを助長している」(星槎道都大学 大島康雄准教授)

北海道の過疎地域では、一軒家が1キロも2キロも離れているという地域もあり、デイサービスの送迎だけで1時間近くかかることもある。
大島准教授は「移動距離の加算やヘルパーへの処遇改善も必要だが、地域によっての単価をもう少し考えないといけない」と制度の変更を訴える。

77歳ヘルパー「体が持つまで続けるつもり」

訪問介護員の伊津子さん(左)は「体が持つまで続けたい」と話す

介護制度のはざまで揺れる訪問介護。それでも、高齢者が最期まで自分らしく生きるための「終の棲家」を守り続ける
標茶町で働く77歳の訪問介護員・剣谷伊津子さんは胸を張る。

「ヘルパーの時間は限られた時間なんですよ。その中で掃除だ、調理だってなると(利用者と)会話する時間があまりない。本当に10分か5分ぐらいの間に(利用者に)笑ってもらえるのは最高だなって思う」 「体が持つまで続けるつもりです」

※この記事は北海道ニュースUHBとYahoo!ニュースとの共同連携企画です。介護制度のはざまで、奮闘する訪問介護の現場と、直面する課題を探りました。

編集後記


北海道ニュースUHB・沼田 海征

雪が舞う過疎の道を、1台の車が走る。ハンドルを握るのは、77歳の現役ヘルパーの伊津子さんだ。
取材で見た彼女の日常。限られた時間の中で、手際よく掃除をし、温かい食事を作り、そして心からの笑顔で利用者に寄り添っていた。「終の棲家」を守る仕事への揺るぎない誇りを感じた。

しかし、その現場が悲鳴を上げている。深刻な人手不足に加え、訪問介護の基本報酬引き下げが追い打ちをかけている。事業者からは「次の改定を待っていられない」という切迫した声が響くが、こういった悲痛な思いをどれだけ国は受け止めているのだろうか。

地方から「終の棲家」が失われることは、私たちの社会が最も大切にするべき「つながり」が途絶えることだと私は考える。この「つながり」を守り、将来へと繋いでいくために、私たち一人ひとりが課題に目を向けていかなくてはならないと改めて感じている。

北海道ニュースUHB
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