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にしおかすみこ母の介護

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突然介護が必要となった80歳の母「施設に入ったら終わり」から「施設にいたい」と言い始めたきっかけ




久々に親に会うこの時期。親の健康状態や介護が始まったとき、きょうだい間などで役割分担を決めておくなど、早めに話し合っておくことが大切だと言われている。


【写真で見る】にしおかすみこさんが朝5時起きで家族のために作っていた作り置き

「確かに、親が介護にかけられる資産がどれぐらいかるかなどは、ある程度把握しておく必要はあると思います。でも、具体的な介護について親も話したがらないし、子ども側も何を話したらいいかわからないというのが現実だと思います。私は母の介護が始まり、兄が当初介護に参加しなくて、苛立ちが募りました。そういった経験から、具体的でなくてもいいから、きょうだい間で親の介護に対してどんな思いを抱いているかを確認しておくといいのではと思いました。なぜなら、きょうだい間で発生する『きょうだい格差』の取材すると、多くの人が親の介護きっかけできょうだい間の問題で揉めることが多いからです」

そう語るのは、自分自身もきょうだい格差に悩んだ経験を持つライターの佐々木美和さんだ。親の介護について考えることが増えるこの時期に、佐々木さんの寄稿を全3編で展開する。前編では介護が「娘」や「近くに住んでいるもの」ばかりに偏る実態について、中編では佐々木さんが取材で得た知識から母親の介護に無関心だった兄が少しずつ介護に関わる様子をお伝えした。後編では、80代の母親の思わぬ変化について、佐々木さん自身の体験談を引き続き寄稿いただく。

再び歩けなくなった母

我が家では、最近驚くべき出来事があった。それは母の思考の変化だった。

母は3年前に股関節と骨盤の骨が砕けて、方向困難になった。その後、人工関節の手術を2度行い、リハビリを行ったことで、シルバーカーを使えば家の中、自宅周辺程度の移動は可能になった。介護認定も要介護2から要支援2まで回復していたのだ。掃除などは市区町村の生活サポートサービスにお願いし、洗濯、買い物、病院の通院等は私が担い、他の部分は母自身がやる、という形を1年ほど保っていた。

ところが昨年夏、母は再び立ち上がれなくなった。スタッフ不足で通っていたデイケアが長期間閉じてしまい、それと並行するように歩く力が失われていった。高齢者の筋力はこんなにも簡単に減ってしまうのか、と驚くばかりだった。気づいたら、ベッドから自力で起き上がれなくなり、ベッドに横になっても腰から足全体に激痛が走ると言い出し、再び「つらい」と言って毎日泣くようになった。

大学病院で調べると、筋力低下だけでなく、腰部脊柱管狭窄症が進んでいるとのことがわかり、強い痛み止めの投薬を試みることになった。しかし、なかなか症状は改善せず、母はベッドから起き上がれず、寝たままで過ごすようになった。トイレも間に合わないことが増え、おむつをし、座るのも大変で食事介助も必要になってしまったのだ。ケアマネージャーに相談し、要支援2のサポートでは補えないので、介護認定の差し戻し申請を行うことになった。

そんな矢先、私に10日間の出張が入ってしまった。どうしても断りたくない仕事だ。母に事情を話し、一時的にショートステイに入ってもらうことにした。まだ、新しい介護認定が下りてないため、入る施設が限られた。1日の入居費用は想定よりもかなり高かったが、仕方ない……。母は「このまま知らない場所で死ぬのね……」「もう家には帰れないのね」と、暗い表情で後ろ向きの発言を繰り返す……。仕方がないことだし、すぐに退所するのだから、と思っても、罪悪感に襲われた。

しかし、出張から戻ったら、「ここでお友だちができたのよ。家にひとりでいるよりも夜おトイレいくときにも介助してくださるし、食事の心配もないし……。足が痛くなくなるまで、もう少しここにいる」と明るい顔で母が言い出したのだ。

その後、母は要介護2の認定が下り、老健(介護老人施設)に入居できる資格を得ることができた。老健に入ればパーソナルなリハビリもあり、それでいて入居費用は安くなる。いろいろな施設の資料を取り寄せて、リハビリが充実していて、明るい施設を探し、私の自宅から車で15分ほどの老健に入居を決めた。

最初は、施設に入ることを拒んでいたのに



当初は、慣れない地域の施設に移ることに、再び後ろ向きな発言を繰り返した。「家からこんな遠いところじゃ、二度と家に帰れない」「ずっと施設で、もう家には帰れない人生なんて……」「あなたが私のことを嫌がっているから施設にいれるのでしょ」と顔を合わせるたびに言われた。でも、本来、老健には長くはいられない。母には3ヵ月の入所プランであると話した。

このころになると、痛み止めの薬も効果が出始め起き上がることも可能になった。医師からも「リハビリをして筋力をつけることが、脚の痛みやむくみ、しびれの緩和につながりますよ」と言われていた。「リハビリをがんばって、筋力をつけて、もう一度自宅で暮らせるようになろう」と伝えると、「家に帰るために頑張るから、時間があるときはできるだけ会いに来て」と涙目で訴えられた……。

入所して半月ほどは、「この施設は静かすぎて合わない」「早く帰りたい」と後ろ向き発言が続いた。しかし、入所1ヵ月を過ぎたあたりから、母に変化が生まれたのだ。以前は面会に行くたびに「今度はいつ来るの?」をくり返したが、「友だちもできて毎日が楽しいのよ」「施設の中にある図書館の本をいろいろ読んで、今は佐藤愛子さんの本を読んでいるの。私もがんばって長生きしなくちゃって思ったわ」と日々の楽しい出来事を話すようになった。リハビリの成果もあってか、シルバーカートやベッドの手すりを持って、スッと立てるようになり、歩幅も以前よりも大きくなっていた。

新しい施設に入り、変化した母



「なんだか、すごいね。頑張っているじゃない!? 成果が出ていると思うよ。表情も明るいし、背筋も伸びてるよね」と話すとうれしそうに、「ホントに!? リハビリが終わった後も、お友だちと廊下をゆっくりウォーキングで何周もするのよ」という。ドアの小窓から、廊下にいるそのお友だちたちが手を振っている。母は「今娘が来ているから、後で参加するね〜!」と明るい声であいさつをする。そして、「あなたも忙しいだろうから、私のことは心配しなくて大丈夫よ。仕事優先でいいわよ」と言ったのだ。私の腕にしがみ付いて泣いていた母はそこにはいなかった。

子どものころから母は、口に毒があって、人との付き合いはあまり上手ではない、と私は思っていた。しかし、施設内では介護士さんや入居者さんともうまくコミュニケーションを取っているらしい。リハビリ担当と施設の担当の方からも、入所当初よりも前向きになって、入所者さんとも広く交流していると報告をもらった。介護担当の方からは「佐々木さんのお母さまは、スタッフの名札を見て、ひとりひとり名前で呼んでくださるんですね。それってお仕事させていただいている側としてはとてもうれしいことなんです」と話してくれた。私が知らない意外な母の姿だった。

人のキャラクターはひとつではない。環境によって引き出される部分が変わることもある。家にいたときの母は、テレビのワイドショーをボーっと観てるだけで、「本とか雑誌とか買ってこようか」と言っても関心すら示さなかった。ぶっちゃけ社会性のかけらもなかった。父の死後、たった一人で暮らしてきたことでより社会性が閉ざされてしまったに違いない。たまに話す近所の人やヘルパーさんはいても、刺激が多いわけでもない。同じルーティーンの繰り返しだ。

母が今いる施設は大きく、入居者もスタッフの方も多い。久しぶりに家族以外の人たちと関わり、80代にして社会性を身に着けた始めている。社会性を持つということは自分の意志で行動し、自分の言葉でしゃべることも意味している。82歳になっても、ここまで変化できることに正直驚いた。高齢者は変らない、変わりっこない、と私自身、決めつけていたと反省した。

と言っても、これから再び母の体調が悪くなることもあるだろうし、認知機能が低下する可能性もある。でも、母の知らない一面を知り、母自身も「今が楽しい」と思える生活ができていることは本当によかったと思うのだ。

未来の介護のために今からできること



介護の形はひとつではないし、症状や進行度によってケアの仕方も選択も変わってくる。施設よりも自宅で自分のぺースで過ごすことに生きがいを感じる人もたくさんいらっしゃる。介護に望むものは人それぞれであり、母の形が正解と言いたいわけではない。母の場合は、自宅でひとりの生活よりも施設で複数の人と過ごすほうが向いていた、というだけともいえる。

でも、施設で人と関わることで、母には自立心と心に余裕が生まれた。それと同時に、私への依存度も減少した。以前は、母の話の約8割が恨み節で、こちらも聞いていて嫌な気持ちになり、怒りで返してしまうという悪循環が続いた。しかし、その状況は現在はほとんどなくなっている。子育てもそうだが、介護も家族が過度に支えすぎない、少し距離を置いて自立を見守ることも必要なのだろう。

もちろん、介護にもグラデーションがあって、認知症が進んだり、完全寝たきりになってしまうと、依存しない生活が難しくなってしまう。でも、自分で動けるうちはできるだけ自分で動く、自分で考える思考を持てるように、依存し合わないことがとても大事だと実感した。

だからこそ、今未来の介護に関して備えておくとするなら、親が出来ないこと(例えば、スマホでメッセージが送れないとか、銀行のキャッシュカードで現金が引き落とせないとか、生活でできると便利なこと)をリスト化して、少しずつでもクリアできるようにしておくこと。身近な人以外に交流を持てる人がいるか、楽しめる場所があるかどうか。テレビでもいいが、新聞や本、ラジオなど社会の情報をキャッチアップできるツールを持っているか、このあたりが老人の自立には大事なのではないかと思う。

私自身も歳を重ねて依存しないためにもこういった力を身に着けていかねばと思った。頑固で新しいことが苦手だと思っていた80代の母でも少しずつだが変化できたことは私にとっても大きな希望になった。このお正月休み、家族で集まる機会があったら、健康状況や資産状況ということだけでなく、家族それぞれの自立力についても話してみてはどうだろうか。
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