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レアアース中国返り討ち



習近平は「最強の切り札」を日本に封じられていた…レアアースの“中国離れ”を15年かけて進めた日本の功績【2025年12月BEST】

中国は世界のレアアース精製量の9割を握り、習近平政権はそれを「最強の交渉カード」として温存してきた。だが、高市首相発言があってもそのカードを日本に切れずにいる。海外メディアは、2015年に尖閣諸島周辺で起きた中国漁船衝突事件を機に、日本が官民一体で進めてきた“脱中国”戦略が成果を上げている、と報じている――。

レアアース精製量の90%を支配する中国

日中間の緊張が高まっている。11月7日、高市早苗首相が台湾攻撃は日本の存立危機に該当しうるとの見解を示し、中国が強く反発した。中国商務部は「両国の貿易協力を深刻に損なった」と批判し、国連には軍事介入への自衛措置を警告する書簡を送付している。

経済面でも圧力は強まる一方だ。中国は今年初めに部分解除していた日本産水産物の輸入禁止を再導入。日本人アーティストのコンサート中止や日本映画の公開延期も相次ぐ。だが、米タイム誌は、シンガポールに拠点を構える市場調査会社チャイナ・トレーディング・デスクのスブラマニア・バットCEOの見解を掲載。「チクリと針で刺すようなもの」にすぎず、日本経済への長期的な打撃は限定的だと指摘する。

では、中国が握る真の切り札とは何か。最も注目されるのが、レアアースだ。CNBCによると、中国は世界のレアアース生産量の約70%を採掘し、精製に至っては約90%を占める。電気自動車から風力発電、戦闘機まで、多くの産業で需要は今後さらに拡大する見込みだ。中国の独占に関してはアメリカやオーストラリアなど西側諸国も、戦略的リスクであるとして警戒を強めている。

「中東には石油、中国にはレアアースがある」
中国は過去30年間ほどを費やし、圧倒的とも言える支配体制を戦略的に広げてきた。

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国が「素手での殴り合い(bare-knuckle tactics、ルール無用の手法)」を繰り広げてきたと伝えるなど、批判的な視点から報道。同国の手法を問題視している。

記事によると、中国は1990年代から国家戦略としてレアアース産業を育成。国内大手への資金援助、海外資産の買収奨励、外国企業の鉱山買収を禁じる法整備など、独占体制を築くための施策を矢継ぎ早に実行した。さらに国内産業を数百社から少数の巨大企業へ統合し、価格支配力を高めていった。

1991年当時、世界最大のレアアース供給国といえば、まだアメリカだった。長年にわたり米国唯一にして最大のレアアース鉱山であった、カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山が名高い。



米マウンテンパス鉱山(写真=Tmy350/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

ところが同年、中国はレアアースを「戦略的資源」と位置づけ、国内では外国企業による採掘を制限。1989年まで最高指導者だった鄧小平は「中東には石油、中国にはレアアースがある」と宣言し、国家の長期ビジョンを鮮明にした。

その後、アメリカ資本の買収を通じ、体制を盤石にした。同紙によると、1995年に中国の国有系企業がGM傘下のレアアース・磁石事業会社、マグネクエンチを買収。米国内の全工場を閉鎖し、設備はすべて中国へ持ち帰った。

新工場の立ち上げに招かれたアメリカ人技術者は、「建設中の工場の数と、そのスピードに度肝を抜かれた」と振り返る。この買収劇の結果、2000年代半ばまでにアメリカのレアアース産業は事実上壊滅。中国は世界シェアの約97%を掌握するに至った。

市場操作でアメリカを葬った

当然、西側も手をこまねいていたわけではない。

2012年、当時のオバマ政権はEU・日本と連名で、中国をWTOに提訴した。中国がレアアースの輸出割当の仕組みを悪用し、諸外国への供給を不当に制限していると訴えたのだ。中国は環境保護のためと反論したが、2014年、WTOは中国敗訴の裁定を下す。

だが皮肉なことに、勝訴したはずのアメリカは一層不利な立場に追いやられた。中国が輸出割当を撤廃すると、アメリカ向けのレアアース販売量が急増したことで、相場は暴落。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、マウンテンパス鉱山の復活を目指していた米採掘会社のモリコープが、安価な中国産の流入で破産に追い込まれたと報じる。アメリカ唯一のレアアース鉱山だったが、わずか10年余りで2度目の閉山に追い込まれた。

それでもアメリカは諦めなかった。2021年以降、国内産業の復活を目指し、豪ライナス社のテキサス精製所など新工場に大規模な資金を投入した。

だが、中国の反撃は素早かった。同紙によると、2022年に生産量を25%増やし、翌年も大幅な増産体制を維持。意図的に生産量を増やすことで、国際相場を操作し暴落させた。アメリカ企業の収益は致命的に悪化し、一部企業は資産売却に追い込まれている。

今年7月、米政府はMPマテリアルズに15%出資するなど、対中国で新たな防衛策を講じた。アメリカのベッセント財務長官は「20年ないし25年、誰も監視していなかった」と、レアアースに関してアメリカが長年無策であったことを認めている。



2025年10月30日、韓国・釜山でトランプ大統領と会談した習近平国家主席(写真=The White House/Wikimedia Commons)

禁輸なら中国は世界の信頼を失う

これほどの支配力を持ちながら、なぜ中国はレアアースを武器として使わないのか。

中国は対アメリカで、歴史的に対立姿勢を鮮明にしてきた。今回の騒動での報復としても、日本への輸出を絞れば、コンサート中止命令などより大きな打撃が予想される。

東京大学の李昊り・こう准教授(法学政治学)は、タイム誌の取材に応じ、中国はレアアースの採掘から精製、加工に至る全工程を掌握していると指摘。追跡システムにより第三国経由の迂回も困難であり、レアアースは「最強の交渉カード」だと評する。

だが、中国はレアアースの一手を切れない。その理由は、国際的な信頼の失墜を恐れているためだ。今年10月の米中首脳会談を経て、レアアース問題は国際社会の注目事項となった。中国の動向は、いわば国際的な監視下に置かれた。

「問題は米中関係と深く結びついている」とリ氏は語る。制限に踏み切れば日本だけでなく、アメリカなど輸出相手国との「相互信頼」を損なう。各国が供給先の多様化や自国生産へ動けば、中国の長期的な優位が揺らぎかねない。日本に対し、中国がレアアースのカードを切れない最大の理由だ。

ブルームバーグも同様の分析を伝える。記事タイトルは「中国が日本へのレアアース輸出を制限すれば、習近平は世界的な反発を招くリスクを負う」と指摘する。

同記事によるとアメリカのトランプ大統領は、習近平氏との会談後、規制問題を「世界のために」解決したと主張。駐日米大使のグラス氏も「アメリカは高市氏を支持する」と明言した。良好な米中関係を維持したい中国として、友好ムードを自ら壊すわけにはいかない状態だ。

元米通商交渉官のカトラー氏は、「レアアースのカードは北京にとってリスキーな一手」だと指摘する。日本以外の貿易相手国にも、次は我が国かと危機感を抱かせ、代替供給源の開発を加速させることになるからだ。コーネル大学のカールソン准教授は、「日本に(輸出停止を)やれるなら、私にもやるのでは」と各国が考えるのは当然だと述べる。


15年かけて進めた「脱中国」戦略

中国が日本へのレアアース禁輸をためらうもう一つの理由がある。日本はすでに15年をかけてリスクヘッジを進めてきた。輸出制限に出れば国際社会の反発は必至だが、リスクに見合うだけの打撃を日本に与えられない公算が高い。

日本が警戒感を強めたきっかけは、2010年9月、尖閣諸島付近での中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した事件だ。



海上保安庁 の「はてるま」と「よなくに」(写真=Paipateroma/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

日本が船長を拘束すると、中国は報復としてレアアースの輸出を2カ月にわたり事実上停止。ニューヨーク・タイムズ紙は、経済産業省に自動車の担当官が「サプライチェーン全体が止まる」と駆け込んできた、と振り返る。

当時、経済産業省で経済政策を担当していた寺澤達也氏は、ニューヨーク・タイムズ紙に、「レアアースについては知識がゼロだった」と振り返る。自動車モーターに使う磁石の必須材料だと説明を受け、初めて事態の深刻さを理解したという。

危機を契機に、寺澤氏は10億ドル(約1600億円)超の政策パッケージを策定した。調達先を多様化し、中国依存のリスクを減らす狙いだ。「必要以上の予算を要求している」との批判も浴びたが、「この事態を二度と繰り返さないと決意していた」と同氏は語る。

政府と並行して民間も動いた。日本の総合商社の双日と独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構は2011年、資金難に陥っていた豪ライナス社に2億5000万ドル(約390億円)を出資。オーストラリアで採掘しマレーシアで精製する、中国を経由しない世界初の統合サプライチェーンを構築した。

双日の植村幸祐社長は同紙に「安定供給がなければ多くの工場が操業停止に追い込まれていた。当時、ライナスが唯一の選択肢だった」と明かす。

米CEO「日本はどの国より優秀に備えてきた」

以来、日本は15年にわたり、中国のレアアース独占への対抗策を着実に進めた。

英エネルギー・資源調査会社アーガス・メディアによると、日本の中国産レアアースへの依存度は2010年の90%超から、現在は60%未満にまで低下した。今年の目標値として50%未満への引き下げも狙う。

レアアースを使用しない永久磁石を製造する米ナイロン・マグネティクスのジョナサン・ロウントリーCEOはCNBCに対し、「日本は今回、他のほとんどの国よりもはるかに準備が整っています」とコメント。備蓄の拡大、ライナス社への投資、西側からの供給確保など、複合的な対策が功を奏したと、日本の動きを高く評価する。

バイデン・トランプ両政権で国家安全保障会議に勤務したケネディ氏も、官民一体の取り組みが日本の成功につながったと認める。ブルームバーグに対し同氏は、供給源の多様化だけでなく、リサイクルやリデュース(使用量の削減)、代替品の開発の4本柱を定め、経産省主導で推進してきたと指摘。こうした日本の対策が、他国との差を生んだと論じた。

コスト面では課題が残る

それでも課題は残る。依存度こそ顕著に下がったが、中国以外から調達するにあたり、コストの壁は高い。

各国が中国産以外のレアアースを積極的に購入すれば市場が拡大しコスト削減につながるが、日本は15年間、ほぼ単独でこの取り組みを続けてきた。

元経産省官僚の寺澤氏は、「なぜこの15年間、実現しなかったのか」と、国際協調の遅れに疑問を呈する。トランプ第1次政権時代にも二国間協力を訴えたが、進展は乏しかった。「アメリカは素晴らしい国だが、単独で中国に効果的に対処できるとは思わない。米国は同盟国と本気で協力する覚悟があるのか」と問い、今が正念場だと強調する。

重レアアースの問題も依然として残る。

レアアースは大きく軽レアアースと重レアアースに分類される。軽レアアースはネオジムやプラセオジムなどを指す。これらは地殻付近に比較的豊富に存在し、モーターや発電機の永久磁石に使われる。

一方、重レアアースのジスプロシウムやテルビウムは希少性が高く、磁石の耐熱性を高める添加剤として不可欠だ。電気自動車や風力発電など高温環境で使用される機器では、重レアアースなしには十分な性能を維持できない。

日本が投資を続けてきたライナス社は、中国企業以外では最大のレアアース生産者だ。だが、産出する重レアアースは限られ、多くは結局中国で精製されているのが実情だ。

コンサルタント会社プロジェクト・ブルーの創設者兼ディレクター、ニルス・バックバーグ氏はCNBCに、「中国の(対米)輸出禁止措置により、重レアアースにおける中国の重要性が浮き彫りになった」と指摘する。

ただしライナス社は最近、2種類の重レアアースを中国外で初めて生産したと発表。課題克服へ向けて歩を進めている。



欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長と会談する習近平氏(写真=European Union/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

レアアースを“人質”にできない中国のジレンマ

高市首相の台湾発言以降、中国の報復は段階的に強まった。水産物輸入の再禁止、観光客への渡航警告、日本人アーティストの公演キャンセルなど。あるコンサートは「機器故障」を理由に直前で中止に追い込まれた。

だが、最も強力なカードであるはずのレアアース輸出制限に、中国は未だ手をつけていない。国際社会が中国の独占体制の危険性を認識した今、諸外国からの反発を招きかねない日本への輸出停止は、中国にとっても危険な賭けとなる。

一方、対米では事情が異なる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、今年10月、中国は中国産レアアース素材を使う海外の磁石メーカーに対し、輸出前に中国政府の許可を取得するよう義務付けた。トランプ大統領は追加100%関税で対抗すると脅したが、後に「持続不可能」と認めている。4月には米国企業への供給が一時遮断され、自動車工場が操業停止を余儀なくされた。

それでも日本には、このカードを切らない。15年かけた備えと国際的な監視の目が、中国の最強カードを封じている。産業の根幹を特定の国に掌握されることのないよう、今回の対立を機に、一層の国際的な協力体制の確立が求められる。
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