2025.9.6
米軍抜きでの戦い

米軍抜きでの戦いも覚悟すべし 米韓同盟の変質に身構える韓国
韓国の李在明大統領が8月25日、ワシントンでトランプ米大統領と初めての首脳会談を行った。今月の米国による相互関税発動の直前、韓国は相互関税率を25%から15%に引き下げることに成功。李氏は首脳会談でトランプ氏を「ピースメーカー」と持ち上げ、米朝首脳会談の開催を勧めるなど、トランプ氏の歓心を買うことに成功した。ただ、「iron clad(鉄桶)」を自称する米韓同盟にとっての試練はここから始まる。米韓両政府は首脳会談後に詳しい説明を避けたが、在韓米軍の削減や役割変更、現在は米軍が持つ朝鮮半島有事の際の作戦統制権(指揮権)の韓国軍への移管、核の傘を含む拡大抑止のあり方など、韓国の安全保障を危機に陥れるかもしれない難題が山積しているからだ。

8月25日、ワシントンDCのホワイトハウスで、ドナルド・トランプ米大統領が韓国の李在明大統領を迎え入れる。
米国のヘグセス国防長官と韓国の安圭伯国防相は7月31日、初めての電話会談を行った。ここで、韓国の軍事専門家を驚かせたのが、双方が「米韓同盟の現代化」を巡る協議を始めることで合意した点だった。「米韓同盟の現代化」はトランプ米政権が好んで使っている表現で、そこには在韓米軍の役割の変更と削減・移転、韓国による国防費の負担増などが含まれているとされる。韓国側は従来、この表現を使うことに慎重だったが、トランプ政権に押し切られたようだ。
トランプ政権では、コルビー国防次官が中心になり、8月末までにまとめる「国家防衛戦略(NDS)」に、米軍の資産を対中国抑止に集中させる戦略を盛り込むべく調整している。現在、約2万8500人の在韓米軍も、1個歩兵師団やその支援部隊を中心に5千人から2万人規模での削減・移転が進む可能性がある。台湾有事の際、韓国よりも米・グアムにいた方が、中国の弾道ミサイルの脅威を軽減できるし、米韓の政治的な調整を省略して、より柔軟・迅速に展開することが可能になるからだ。予備役の韓国陸軍元将校は「米国が台湾有事に集中すれば、在韓米軍も北朝鮮に対する抑止を最優先できなくなるかもしれない」と懸念する。韓国軍は情報・監視体制やミサイル防衛で主導権を握ることができるほど能力を高める必要がある。
しかし、そうなると、別の悩みが生まれる。「米軍頼み」が効かなくなるため、「韓国軍主導で」という考え方は論理的だが、そうなると、戦時作戦統制権の韓国軍への移管を急がざるを得なくなるからだ。現在は米軍が有事の際、韓国軍に対する指揮権を持っている。米軍の方が韓国軍より圧倒的に情報収集能力があるし、韓国外からの支援軍の受け入れ、兵站などを総合的に調整する能力に秀でているからだ。韓国もこの状況を理解し、韓国軍による指揮能力、ミサイル防衛能力などが一定水準に達し、周辺の安全保障環境も落ち着いていることを移管の条件としてきた。李在明政権は13日、国政運営5カ年計画を発表し、大統領任期(5年)内の戦時作戦統制権の移管を目指す方針を明らかにした。
在韓米軍の役割に「中国に対する牽制」が加われば、戦時作戦統制権の韓国軍への移管は加速するだろう
在韓米軍の役割に「中国に対する牽制」が加われば、戦時作戦統制権の韓国軍への移管は加速するだろう。上述の韓国軍元将校は「指揮権の移管は慎重を期すべきだ」と語ると同時に、「移管が在韓米軍の撤収や米軍によるISR(情報収集・警戒監視・偵察)能力の提供中止につながるという憂慮は、極端な考えだ」とも指摘する。ただ、在韓米軍が中国軍を意識すればするほど、韓国軍は朝鮮半島有事で主導権を握らざるを得なくなり、今の米韓同盟のシステムに不都合が生まれるだろう。
こうなると、国防予算の増加は避けられないが、韓国の2025年度国防予算は61.6兆ウォン(約6兆2千億円)で、すでに国内総生産(GDP)比2.3%を占めている。韓国は29年初めまでに国防予算を84兆ウォンに増やす方針だが、トランプ政権が要求するGDP比5%を達成する場合、国防予算は132兆ウォンになり、経済や社会的な負担が大きくなりすぎる。元将校は「日豪比などの友好国と協力して国防先端技術開発や国防産業の育成に努める必要がある」と語るが、道のりは簡単ではないだろう。
結局、韓国は朝鮮戦争でそうだったように、隣国の日本との安全保障協力を進めざるをえなくなるだろう。元将校も現在の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に加え、弾薬や装備を融通し合える物品役務相互支援協定(ACSA)、自衛隊と韓国軍の往来を円滑にし、有事の際の避難などにつなげる相互往来協定(RAA)の締結が必要だと語る。もちろん、戦後80年を迎えても、「日本軍国主義」への反発が色濃く残る韓国世論は無視できない。元将校は「まず国民世論の理解が必要だ。そのためには、韓国軍と自衛隊の相互交流を段階的に増やし、韓日の安全保障協力がどれだけ意味があるのかを理解してもらう必要がある」と語る。
全くその通りだが、果たしてそれまで中国や北朝鮮が待っていてくれるかどうか。日韓両首脳は23日の共同発表文で「戦略認識の共有の強化」をうたったが、具体的な協力には踏み込まなかった。進歩(革新)系の李在明政権が具体的に日米防衛協力に踏み込めば、政権の求心力を保てなくなるだろう。それどころか、米韓両国が25日に米朝首脳会談の推進で一致したことで、トランプ氏が北朝鮮の核保有を黙認する危険も高まっている。日韓安全保障協力の道のりは依然、遠く険しそうだ。

